【アットホームが怖い理由|キシミール体験ログ:DAY 08】

当店は『横浜駅』にて
創業40年の小さな個人経営店
ファッションヘルス《キシミール》です🧺
今回の擬似体験ログは、
「アットホーム」という言葉に、身構えてしまう女性のお話。
本来なら温かいハズのその言葉だが、近年は求人広告で用いられると“ブラックな職場“を想起させる、地雷ワードとされている。
そのトラウマと、彼女の捉え方の繊細さを描く、とある一夜の記録である。
このシリーズでは、オリジナル魔除けキャラクター「あぱらぎ」が“見届ける者”として登場するのだ🐶
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▫️0:その単語、もう何回見ただろう
30歳。
テレアポの仕事を終えて、最寄り駅から自宅までの帰りのバスで求人を眺める。
立地は横浜駅。
この条件は、とても助かる。
HPをスクロールして、ふと目に入る一文。
「実家みたいな空間です」
……あぁ。
はいはい、出た。
指が止まる。そして目を背ける。
“アットホーム”って書いてあると、反射みたいに閉じるボタンを押そうとしてしまう。
理由は……実体験としてある。
あの感じ。
距離が近すぎる空気。
みんな仲良し前提の空間。
私は、そこで何度か、消耗してきた。
車窓から雨の街を眺めて、深呼吸。
それでも、横浜駅っていう場所には、職場としての魅力は感じてる。
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あぱらぎ🔭
「……彼女は他人からの距離の曖昧さに、敏感なんだね。パーソナルスペースとマイペース、そういうアンバランスに怖さを覚えるタイプ。」
ビジネスコラム | 創業40年目|『横浜駅』の裏事情・情報ブログ|個人店【キシミール】
昼職の求人広告だったり、面接で、何度も見聞きした。
「うちは家族みたいな職場です」
最初は、なんとなく悪くないと思った。
人間関係も親しみがあるほうが、働きやすいって思えたし。
でも、その「家族みたい」って。
飲み会はほぼ全員参加。
休日にもグループLINE。
体調が悪いと心配より先に詮索。
男性職員の距離が近い。
女性職員の仲間意識が強い。
体温は冷たくないけど、息がしづらい。
それで行き詰まって、風俗の仕事を選んだ時期もあった。
収入として割り切れる場所を求めて。
必要な時間だけ。
必要な関わりだけ。
そう思って入ったのに、そこでも特有の女性同士の妙な空気や、スタッフの色目っぽい視線に気を遣う場面もあった。
距離の種類が違うだけで、気を張る感覚は残ってる。
だから、私は、距離感を優先したいの。
仲良しよりも、境界線。
熱気よりも、穏やかさ。
私は、ひとりでいられる空間を選びたい。
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あぱらぎ🔭
「……彼女が守っているのは体温より心温。物理的な近さよりも、存在としての安心感で判断しているんだね。」
横浜駅。
……それだけで、だいぶ助かる。
私の住まいは、2つの路線の間にあって、最寄り駅が2つ。
現在の職場的に、少し遠い最寄り駅を使っているけど、横浜駅からなら自宅に近い方の駅からも帰れるし、スーパーとか気分転換とか、選択肢が増えるのも好都合。
何かと副業なら現実的。
だから私は、普段なら気後れする「アットホームぽさ」は怖かったけど、もう一度だけ《キシミール》のHPに目を向けてみた。
ブログも、ちゃんと読む。
ざっと流すんじゃなくて、何記事かは。
どれどれ……
意外と、内容が濃いし、文量も多い。
気分やノリみたいな日記じゃなくて、しっかり考えて書いてあるような、作り込まれた文章。
特に目が止まったのは、
「なぜ大手広告に載せないのか」という話。
集客のための競争をしない。
必要な分だけ、必要な人と。
お店を出たあとの日常を整える場所でありたい。
……ふぅん。
数字より、姿勢。
煽りより、距離感。
スクロールしながら、ちょっとだけ肩の力が抜ける。
横浜駅が便利なだけじゃなくて。
ここは、風俗店というより“個性の要素“が濃い。
そんな風に思えた。
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あぱらぎ🔭
「……立地だけで気になっていたけど、ブログを読んだことで、別の興味が湧いたみたいだね。彼女の心の物指しが、距離を測り始めたところかな。」
【女性キャストへの取り組み| 創業40年目|『横浜駅』の裏事情・情報ブログ|個人店《キシミール》】
ブログ記事を読み進める。
どうやら、女性オーナーで、ママがいるお店らしい。
お菓子をくれたり、世間話をしたり。
寮母みたいな立ち位置って、書いてある。
──へぇ。
でも、プライベートに踏み込む感じはしない。
仕事が終われば、それぞれ帰る。
必要なことだけ共有する。
群れようとする、あの気配が、ない。
各部屋があって、リビングは通過点。
そんな実家のイメージが、ふっと浮かぶ。
無理に笑わなくていい。
機嫌を読み合わなくていい。
空気を合わせ続けなくていい。
必要なときだけ、声をかける。
困ったときは、手が届く。
それ以外は、静か。
……あ。
これ、“家族ごっこ”じゃない。
それぞれに個人スペースがある家だ。
胸の奥の警戒ランプが、ひとつ消える。
完全に安心したわけじゃないけど。
でも、緊張がまた一段だけ下がったかも。
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あぱらぎ🔭
「……彼女が求めていたのは人付き合いより、人と人との信頼関係が醸成する構造なんだね。
安心に結び付く距離感の設計。」
スマホの画面を、しばらく眺めてた。
このまま応募フォームに……
とは、まだ勇気が足らない。
けど、選択肢としては残そうかな。
「アットホーム」って言葉に対する怖さは、もちろん残っているけど、よくよく考えたら《キシミール》内にそういう言葉が書かれてはいなかった。
最初の先入観、あの引っかかりは、もうとけた。
ここからは、冷静に選択肢として考えられる。
横浜駅。スペースがある家。群れない空気。
これって、悪くないよね?
私は、自分に問いかけつつ、そっとブックマークに保存しておいた。
まだ決めたわけじゃない。
そもそも風俗店で働くのだって、毎回それなりの気力がいる。
でも、消さないよ。
今夜はもう十分の収穫。
スマホを伏せると、もう直ぐ最寄りのバス停。
私、“アットホーム”が怖いんじゃなかった。
鍵のない空間で、ドシドシと踏み込まれるのが嫌だった。
「雨やんでるじゃん…」
戻り道だけど、気分も晴れたから、スーパーへ寄り道。
——Fin.
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あぱらぎ🔭
「……今日もお疲れさまでした。
彼女は、自分の距離感を持っている人。
近い遠いってより、心地いい距離を。
そういうスペースの中で、穏やかに活き活きと暮らせたらだね。」

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